横浜地方裁判所 昭和45年(ワ)227号 判決 1972年10月17日
原告 具志堅興次
<ほか一名>
右両名訴訟代理人弁護士 渡名喜重雄
被告 新里ツル
<ほか三名>
主文
被告らは原告らに対し、別紙目録記載の土地について、昭和二五年五月三一日売買を原因とする所有権移転登記手続をせよ。
訴訟費用は被告らの負担とする。
事実
≪省略≫
理由
一 原告ら主張事実は被告らにおいて明らかに争わず、自白したものとみなされる。
二 次に、被告らが本件所有権移転登記義務を相続により共同承継したか否かについて判断する。
1 弁論の全趣旨によると、被相続人新里松栄は、本籍は沖繩であるが、その住所であった横浜市鶴見区仲通三丁目八〇番二において死亡し、(本件繋争不動産も現にその住所地に存在している)一方、被告らは本籍、住所ともに終始沖繩にあったことが認められる。
2 沖繩は昭和二〇年四月アメリカ合衆国軍による占領の際、軍政府総長ニミッツ元帥により公布されたニミッツ布告第一号により、占領時の法規の施行が持続され、さらに昭和二一年一月二九日付の連合国最高司令官から日本国政府に対する「若干の外廓地域を政治上、行政上日本から分離することに関する覚書」により、日本政府は沖繩に対して政治上、行政上の権力行使は一切できないこととなっていた結果、右松栄の死亡当時である昭和二六年、沖繩には依然として旧民法が施行せられていたのであるから、日本本土において施行されていた新民法とは相異なり、相続の形態は家督相続であったのである。
3 そこで、本件の場合に本土、沖繩のいずれの相続法が適用されるか。当裁判所は、以下の理由により、本土法たる新民法が適用され、従って、共同相続となるものと考える。
(一) 前述したように昭和二六年一二月当時の沖繩は、連合国による占領政策の一環として日本本土から政治上、行政上分離せられていたものの、日本の領土であったことに変わりはなかったのであるから、沖繩を外国とみて沖繩における法秩序を外国法秩序と解し、日本本土法との関係を国際私法の問題として考えることは適当でない。
(二) 一方、前記政治上、行政上の分離により、沖繩において施政権は占領軍軍政府に帰属し、占領軍軍政府の施政権を根拠として、占領当時沖繩に施行されていた各法規がそのまま維持されたこと前叙のとおりであるから、右沖繩法秩序をもって日本の国内法秩序とみることはできず、従って、本土法との関係を国内法の衝突とみることはできず、準国際私法の問題として把えることも必ずしも適当でない。
(三) 要するに、沖繩についてだけ施政権を分離した占領という事実によって発生した特殊な異法地域関係なのであるから、調整のため何らかの特別立法措置が講ぜられて然るべきであったろうが、実際には何ら講ぜられていなかったのであるから、いわゆる法の欠缺の場合に該当し、従って、基本的法理ないし条理に則って解決せざるをえない。
(四) そうであってみれば、沖繩に施行されていた旧民法の親族・相続法は、その内容において日本国憲法の基調である個人の尊厳、自由、平等の基本的法理に反するものがあり、右憲法施行後の日本においては、被相続人が沖繩に本籍及び住所を兼ね有する場合についてのみ止むなく適用すべきものと解すべく、さきに弁論の全趣旨により認定した本件事実関係において適用されるべき相続法は、本土の新民法たるべきである。
三 よって、原告らの本訴請求は理由があるからこれを認容し、訴訟費用の負担につき民事訴訟法八九条、九三条を適用して、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 立岡安正 裁判官 新田圭一 西島幸夫)
<以下省略>